昭和中期に誕生した100万ドルのキャッチコピーですが、平成以降の観光案内では「1000万ドルの夜景」という表現が主流となっています。この1000万ドルの夜景との違いは、単なる言葉のインフレーションではありません。都市構造の変化、経済成長、そして為替と電気料金の推移が緻密に反映された結果です。
神戸市や観光推進団体が2000年代初頭に再試算を行った際、摩耶山掬星台から望める範囲は神戸市街にとどまらず、大阪市、堺市、遠くは関西国際空港周辺まで拡大していました。見える電灯数は約700万灯へと跳ね上がり、1日あたり(または月間)の電気代は1953年当時とは比較にならない規模へ膨張していたのです。当時の為替レートや物価水準を掛け合わせた結果、1日あたりの消費電力額が約1,000万米ドルに相当するという計算が成り立ち、神戸市は公式に「1000万ドルの夜景」を謳うようになりました。
では、現在の電気代換算を適用するとどのような試算になるのでしょうか。近年のエネルギー価格高騰や再エネ賦課金の増大、さらに1ドル=150円台前後の為替水準を考慮すると、数値はさらにダイナミックな動きを見せます。
街全体の照明が高効率なLEDへと更新されたことで、物理的な消費電力量(kWh)自体は抑制傾向にあります。しかし、世界的なエネルギー情勢に伴うキロワット時あたりの電気料金単価の上昇、さらに視野に入る臨海コンビナートの24時間稼働ライトや高層タワーマンション群の明かりが加わったことで、光の総体が持つ経済価値は現在も「1000万ドル」の看板に偽りのない規模を維持しています。