「自治体の検診でNILMだったから、自分は子宮頸がんとは無縁だ」と思い込んでしまう受診者は少なくありません。しかし、医療機関でNILMでも再検査が必要な理由として真っ先に挙げられるのが、子宮頸がん検診 偽陰性の真相です。細胞診という検査手法の特性上、病変が存在しているにもかかわらず「異常なし」と判定されてしまう確率が、国内外の複数の学術論文において約10〜20%存在することが報告されています。
偽陰性が生じる最大の構造的要因は「細胞採取の物理的な限界」です。子宮頸がんは、膣と子宮をつなぐ子宮頸部の表面(扁平上皮)と、子宮の奥へと続く頸管(円柱上皮)の境界線である「移行帯(SCJ)」に最も多く発生します。この境界部位は加齢や出産経験によって奥深くに引っ込んでしまう傾向があり、専用のヘラやブラシを用いても、病変の細胞を1個も擦り取れないケースが起こり得ます。病変が存在していても、顕微鏡のプレパラート上にがん細胞が乗っていなければ、検査結果は自動的に「NILM」として出力されてしまうのです。
さらに見過ごせないのが、人間心理に潜む「正常性バイアス(認知の歪み)」の罠です。医療社会学の観点からも指摘されている通り、人は公的な検査結果で「異常なし」のお墨付きを得ると、その後に生じた体調の異変を「気のせい」「疲れのせい」と過小評価して打ち消そうとする心理が強く働きます。検診から数カ月後に不正出血や性交時の出血が見られたにもかかわらず、「この前の検診でNILMだったから大丈夫」と受診を先延ばしにした結果、発見時には浸潤がんに進行していたという臨床事例は後を絶ちません。