蚊が吸血対象を感知するプロセスは、精密なセンサーを何段階も組み合わせた多角的な追尾システムです。蚊の頭部にある小顎髭(しょうがくひ)や触角には、空気中の微細な分子を捉える受容体が密集しています。
遠距離(10〜30メートル)から蚊を呼び寄せる最大の因子は、呼吸に伴って排出される二酸化炭素です。蚊は周囲の大気中濃度(約0.04%)からわずか0.01%上昇しただけでも二酸化炭素の気流を検知し、その発生源に向かってジグザグに飛行(風上飛行)を開始します。
接近した蚊が次に感知するのが「熱源(体温)」と「汗の揮発成分」です。蚊の温度センサーは0.05度の微小な温度差を感知できると言われており、基礎体温が高い人や運動直後の人をピンポイントで捉えます。さらに、汗に含まれる乳酸、尿酸、アミノ酸といった揮発性アミン類は、蚊にとって「生きている哺乳類が至近距離にいる」ことを告げる強力な合図です。
アルコールを摂取した人が蚊の標的になりやすいのも完全な生化学的必然です。アルコールが体内でアセトアルデヒドから酢酸へと分解される過程で、代謝が高まって呼気中の二酸化炭素排出量が急増します。加えて、末梢血管が拡張して皮膚表面温度が上昇し、発汗量が増えるという「蚊の好物」が完全に揃ってしまうのです。