ネットの検索窓に「低脂肪牛乳」と打ち込むと、サジェストに「発がん性」という物騒な単語が表示されることがあります。この不穏な噂の出所を追跡すると、乳牛の飼育環境に関する一般的な懸念と、製造プロセスへの無理解が結びついたものであることが判明しました。
第一に、低脂肪牛乳を作る工程で化学薬品や有機溶剤が使われているのではないかという疑念です。植物油の一部で行われるヘキサン抽出法などと混同されている節がありますが、生乳から脂肪を除去する装置は単純な物理的遠心分離機です。比重の重い脱脂乳と軽いクリーム分を回転力だけで分離しているに過ぎず、化学的処理は一切介在しません。
第二に、乳製品に含まれる成長因子「IGF-1(インスリン様成長因子1)」や女性ホルモン(エストロゲン)が前立腺がんや乳がんのリスクを高めるという言説です。世界がん研究基金(WCRF)および米国がん研究協会(AICR)の包括的レビューによれば、牛乳・乳製品の摂取は大腸がんのリスクを「ほぼ確実に下げる」と評価されています。前立腺がんについては多量摂取(カルシウム換算で1日1500mg以上など極端な過剰摂取)においてわずかな関連が指摘されているものの、これは全脂乳・低脂肪乳を問わない乳製品全体の課題であり、低脂肪牛乳特有の発がんリスクを示す査読付き論文は存在しません。
動脈硬化や脂質異常症を専門とする循環器内科医の見解では、LDL(悪玉)コレステロール値が基準値を超えている患者に対して、飽和脂肪酸の摂取量を抑える目的で低脂肪牛乳への切り替えを推奨することが標準的な診療ガイドラインに合致しています。乳脂肪に含まれる飽和脂肪酸(ミリスチン酸やパルミチン酸)は血清コレステロールを上昇させやすいため、心血管疾患の予防という観点において、低脂肪牛乳の脂質抑制効果は依然として高い医学的価値を持っています。