若き日の小栗にとって、蜷川の稽古場はまさに戦場だった。怒号が飛び交い、時には演出席から灰皿やパイプ椅子が飛んでくる。それは決して誇張ではない。「下手くそ」「帰れ」「お前じゃなくてもいい」。そんな言葉が日常茶飯事として浴びせられた。
特に有名なのが、2007年の舞台『カリギュラ』での壮絶なやり取りだ。小栗は主役という重圧と、蜷川からの容赦ないダメ出しに精神的に追い詰められ、一時は楽屋で動けなくなるほどの極限状態に陥ったという。しかし、蜷川が求めていたのは、その絶望の先にある「剥き出しの人間」だった。小栗はその期待に応え、狂気と哀愁に満ちた皇帝を見事に演じきり、役者としての地位を不動のものにした。