車に乗る多くの人が「家庭用エアコンと同じように、リバーシブルの回路で冷風と温風を切り替えている」と誤解しています。しかし、カーエアコン冷房暖房の仕組みを紐解くと、そこには内燃機関の熱エネルギーを極限まで使い倒す自動車工学の知恵が凝縮されています。
冷房システムは、家庭用冷蔵庫とほぼ同一の原理です。「液体が気体に蒸発するときに周囲から熱を奪う(気化熱)」という物理現象を利用し、配管内に密閉された冷媒(エアコンガス)を機械的に圧縮・液化・減圧・蒸発させながら循環させています。この一連のサイクルを強制的に動かす心臓部が「コンプレッサー」であり、インパネにある「A/Cボタン」を押すことで初めて作動します。
一方、従来のガソリン車やディーゼル車の暖房には、冷媒サイクルは一切関与していません。エンジンのシリンダーブロックを冷却して高温(約80〜90℃)になった「エンジン冷却水(LLC:ロングライフクーラント)」の一部を、車室内のダッシュボード奥にある小型ラジエーター「ヒーターコア」に引き込み、そこにブロアファンで風を当てることで温風を作り出しています。つまり、暖房は単なる「エンジンの排熱回収暖房」なのです。
したがって、暖房を作動させるだけならコンプレッサーを回す必要がないため、燃料消費はほとんど増えません。ただし、ハイブリッド車(HEV)の一部や完全な電気自動車(EV)では、エンジン廃熱が不足または存在しないため、冷房サイクルを逆回転させて暖める「ヒートポンプシステム」や「PTC電気ヒーター」が搭載されており、家庭用エアコンに近い仕組みへと急速にシフトしています。