なぜこれほどまでに多くの大人が筆記体に苦戦するのでしょうか。その背景には、日米をはじめとする「筆記体現在の教育事情」の激変があります。
文部科学省の学習指導要領を振り返ると、日本の中学校英語教育において筆記体は、2002年の改訂以降「必修」から「選択(取り扱うことができる程度)」へと格下げされました。その結果、現在の20代〜30代前半の世代は学校で筆記体を体系的に学んだ経験をほとんど持たず、自力で練習しない限り書けないという環境が生じています。
しかし海を隔てた米国では近年、逆転の動きが起きています。カリフォルニア州で2024年1月より小学校での筆記体指導を義務付ける法案(AB 446)が施行されたのをはじめ、全米で20州以上が筆記体教育の復活に舵を切りました。認知神経科学の諸研究でも、キーボードタイピングよりも手書きの筆記運動が、脳の言語処理領域や長期記憶の定着を飛躍的に活性化させることが報告されています。
運動心理学の観点から見ても、筆記体は一文字ごとにペンを離さない「連続運動(Continuous Motor Task)」です。特にbのような非対称な高所接続を身体に刻み込む過程は、指先の繊細な固有受容感覚を鍛える優れた脳トレとして再評価されています。