バック駐車の最中にステアリングの向きを見失ってしまうのは、ドライバーの空間認識能力に欠陥があるからではありません。人間工学および交通心理学の研究によると、バック時の運転操作は前進時に比べて作業記憶(ワーキングメモリ)への負荷が約3倍に跳ね上がることが実証されています。
最大の混乱要因は「視線の基準点」のブレです。前進時は進行方向とドライバーの顔の向きが一致していますが、バック駐車では「ルームミラー」「左右のサイドミラー」「バックモニター」「直接の目視(振り返り)」と、視界の情報源が目まぐるしく切り替わります。特にサイドミラーは鏡像(左右反転)として映るため、脳内で「鏡に映る映像」と「実際の車の向き」を補正しようとして、ハンドルの回転方向が瞬時に判断できなくなる心理的トラップが生じます。
さらに、後続車や同乗者の視線による「早く停めなければならない」という焦燥感が加わることで、脳の扁桃体が過剰に反応し、いわゆる駐車パニック状態に陥ります。パニックになるとステアリングの現在位置(中立なのか、何度切れているのか)の把握が完全に消失し、感覚任せに回してタイヤの向きを制御不能にしてしまうのです。