富士山の呼び名の起源には複数の有力説が存在し、古代から人々の想像力を掻き立ててきました。文献史学および言語学の視点から主に以下の説が検証されています。
最古の記録の一つである『竹取物語』では、かぐや姫が昇天する際に残した「不死の薬」を、帝が日本で一番高い山の山頂で燃やさせたという伝承から「不死の山(ふしのやま)」が転じたと記されています。また、他に類を見ない唯一無二の存在を意味する「不二(ふじ)」、豊かな実りや尽きることのない活力を示す「不尽(ふじん)」を語源とする説も有力です。
さらにアイヌ語研究者からは、火の神を意味する「フンチ(funci)」や、噴出する地形を表す言葉に由来するという説も提示されてきました。いずれの説にも共通しているのは、富士山が単なる地形ではなく、古代人にとって「燃え盛る火のエネルギー」と「神秘的な霊力」を併せ持つ神聖な空間であったという点です。
平安時代から鎌倉時代にかけては、火山活動を鎮めるための「浅間信仰」が確立。室町時代以降には修験道の実践場となり、江戸時代には庶民の間で「富士講」が大流行しました。白装束に身を包んだ講中たちが頂上を目指す登拝文化は、2013年にユネスコが富士山を「自然遺産」ではなく「世界文化遺産」(登録名称:富士山―信仰の対象と芸術の源泉)として登録した最大の根拠となっています。