ウディ・アレン監督の映画『カフェ・ソサエティ』が活写した1930年代の社交界では、カフェとはセレブリティが虚栄とゴシップを交わすための舞台装置だった。それから約1世紀。2020年代半ばを越えた日本の街角で、その風景は劇的な変貌を遂げている。きらびやかなドレスの代わりにスマートバックパックを背負った人々が集い、注文したドリップを片手にキーボードを叩く。コワーキング・ノマドワークの波は、喫茶店というフォーマットを個人の自律的な作業拠点へと完全に再定義した。
もはや「ちょっとお茶を飲む」だけの場所ではない。仕切り板でプライバシーを確保したシングルブース、背筋を伸ばして長時間座れるエルゴノミクスチェア、果てはWeb会議専用の防音セルまで導入する店舗が珍しくなくなった。社交の場から、孤独を肯定しながら社会と接続する拠点へ。カフェが果たす都市機能の重心は、確実に個の生産性へとシフトしている。