芦屋のなかでも頂点に君臨する芦屋六麓荘町に足を踏み入れると、訪れた誰もが視界の異様さに気付きます。道路の上空を覆う電線が一本も見当たらず、抜けるような広い空と手入れの行き届いた松やクスノキの緑が視界いっぱいに広がるためです。
この六麓荘電柱がない理由は、昭和初期の都市計画にまで遡ります。1928年(昭和3年)、大阪財界の有力者たちが「東洋一の健康的な田園都市を創出する」という壮大な理想を掲げ、六麓荘の開発に着手しました。当時としては極めて先進的だった電線類地中化(地下埋設)を日本で最初期に自費で導入し、景観の美しさと防災性を同時に確保したのです。
街並みを歩いて見渡しても、自動販売機やコンビニエンスストア、街頭広告看板などは一切視界に入りません。街全体が「静けさと気品」を保つためだけに設計されており、車道には私設警備会社のパトロールカーが静かに巡回する光景が見られます。騒音や視覚的ノイズを極限まで排除した空間設計こそが、半世紀以上にわたり国内外の富裕層を惹きつけてやまない理由です。