幕府と朝廷の違いを最も端的に整理する鍵は、権力と権威の違いという政治概念にあります。この2つの言葉は混同されがちですが、本質はまったく異なります。
まず朝廷とは、天皇を中心とした「公家政権」です。古代の律令制以来、日本という国家の頂点として君臨し、宗教的な儀礼を執り行い、元号を定め、官位を授ける源泉でした。これは現代の法治国家における「憲法上の正統性」や「国家元首の承認権」に近い性質を持ちます。自前の大軍勢を動かす武力や莫大な財力は持たなくとも、「この国で誰が正当な統治者か」を認める圧倒的な権威(Authority)を独占していました。
対する幕府とは、武士の首領である征夷大将軍をトップに戴く「武家政権」です。警察権、軍事力、裁判権、徴税権を一手に握り、実際に領国や民衆を支配する実質的な権力(Political Power)を執行する機関でした。幕府の語源は、出征中の将軍が張った天幕(陣営)を指す言葉であり、本質は軍事司令部です。
ここで重要なのが征夷大将軍の役割です。どれほど武力で天下を平定した武将であっても、自ら「今日から私が日本の王だ」と名乗ることは許されませんでした。天皇から征夷大将軍に任命される儀式を経て、初めて「日本全土の軍事・警察権を一任された公認の統治者」という大義名分を手に入れたのです。つまり、朝廷が「統治のライセンス」を発行し、幕府がそのライセンスを掲げて実際の「経営」を行うという役割分担が成立していました。