陸上自衛隊伊丹駐屯地(兵庫県伊丹市緑ケ丘)を語る上で欠かせないのが、中部方面総監部の存在です。陸上自衛隊には全国を5つに分けた「方面隊」(北部・東北・東部・中部・西部)が存在しますが、中部方面隊が受け持つ警備区域は本州中部から四国全域に及ぶ2府19県。全国の人口の約3割、日本経済の要である阪神・中京メガロポリスを網羅しています。
では、なぜ大阪や名古屋といった巨大政令指定都市ではなく、兵庫県伊丹市の地に最高司令部が置かれているのでしょうか。防衛関係者への取材や歴史的経緯を紐解くと、そこには3つの戦略的必然性が浮かび上がります。
第1に、陸海空の結節点としての交通利便性と後方連絡線の確保です。伊丹駐屯地は大阪国際空港(伊丹空港)に近接し、名神高速道路や中国自動車道、山陽新幹線などの大動脈へのアクセスが極めて良好です。有事や大規模災害発生時、指揮官や幕僚が迅速に現地へ展開できるだけでなく、全国からの増援部隊を受け入れる兵站・通信ハブとして機能します。
第2に、大阪平野の都市機能麻痺を想定した「抗堪性(こうたんせい)」の維持です。大都市中枢に重要司令部を置く場合、直下型地震による津波被害や都市大火災、インフラ途絶によって司令部機能そのものが孤立するリスクを孕みます。内陸寄りの台地に位置する伊丹は、強固な地盤と都市部からの適度な距離を併せ持ち、指揮通信機能を維持しやすい地理的アドバンテージを備えています。
第3に、第2次世界大戦前からの軍事インフラの継承という歴史的基盤です。この地は旧陸軍の施設跡地であり、戦後の警察予備隊、保安隊を経て1954年に陸上自衛隊駐屯地として開設されました。1960年には高隈(現・八尾)から中部方面総監部が移駐し、半世紀以上にわたって西日本防衛のブレインとしての設備投資が積み重ねられてきたのです。