幼少期の順は、父親がラブホテルから浮気相手と出てくる現場を目撃し、「お城からお姫様と王子様が出てきた」と無邪気に母親へ報告してしまいます。その結果、両親は離婚。家を出ていく父親から浴びせられた「全部、お前のおしゃべりのせいじゃないか」という理不尽な責任転嫁が、幼い少女の心に決定的なトラウマを植え付けました。
直後に現れた「玉子の妖精」によって、順は「喋るとお腹が痛くなる呪い」をかけられます。では、この妖精の正体は何だったのでしょうか。作中に散りばめられた描写を精査すると、妖精が順の主観映像の中にしか現れないこと、そして精神分析の観点からも明白な結論が導き出されます。
玉子の妖精の正体は、「これ以上言葉で誰かを不幸にしたくない、自分が傷つきたくない」という強い自責の念から、順の幼い精神が無意識に作り出した自己防衛のための幻想(防衛機制)でした。小児期における精神的ショック(マルトリートメント)によって声が出なくなる心因性失声症や身体化障害のメタファーであり、自らに「喋れば激痛が走る」という身体的制約を課すことで、二度と真実を口にしないよう鍵をかけていたのです。
山小屋で拓実に全ての呪詛を吐き出し、拓実からも剥き出しの本音を返された瞬間、順の目の前から玉子の幻影は完全に消え去りました。外からかけられた魔法を解く物語ではなく、「自分自身で閉ざした心の殻を、他者との生々しい対話を通じて自ら打ち破る」という心理的リアリズムこそが、本作の伏線回収における最も秀逸な構造です。