SNSやネット掲示板、Q&Aサイトを定点観測すると、「どちらを書くのが恥ずかしくないのか」「メニュー表を作るときに迷う」といった生々しい悩みが日常的に交わされています。
Yahoo!知恵袋やX(旧Twitter)における直近の言及データを追うと、「居酒屋のメニューで『薫製』と書いてあるのを見ると、常用漢字に配慮した丁寧さを感じる」「いや、キャンプや本格スモークをやる人間からすると『燻製』じゃないと煙の熱気やスモーキーな重厚感が伝わらない」といった具合に、視覚的な印象による好みの二極化が起きています。
また、検索キーワードとして見られる「kunkun」というフレーズの背景には、漢字の読み「くんくん」という愛嬌ある音の響きに加え、燻製愛好家コミュニティにおけるスラング的な親称や、ペットがスモーキーな匂いを嗅ぐ仕草を連想したハッシュタグ利用など、ウェブ特有のカルチャーが入り交じっている側面も確認できます。
取材現場で出会った都内のクラフト燻製バーの料理長は、この使い分けの心理について次のように語ってくれました。
「仕込みの現場では、桜やヒッコリーのチップを焚いて煙を充満させる作業を『燻(いぶ)し』と呼びます。ここは完全に火と煙の格闘なので『燻』の感覚です。しかし、完成したベーコンやチーズをお客様のテーブルにお届けし、ドーム状の蓋を開けた瞬間に広がる芳醇なフレーバーは、まさに『薫り』。職人の感覚としては、工程の物理現象は『燻』であり、食体験の情緒は『薫』であるという両面を実感しています。ただ、メニューに書くときは重厚感と本格感を出すため、あえて『燻製』の字を選んでいます」
職人の肌感覚としても、煙という物理的な媒体と、香気という情緒的な成果物の間で自然な住み分けがなされていることが伺えます。