もりそばとかけそばの最大の違いは、つゆの「かえし」と「だし」の希釈比率(濃度)にあります。麺の温度が異なれば、人間の舌が感じる味覚の感度や塩分の感じ方も大きく変化するため、職人の手によって緻密な味付けの設計がなされています。
蕎麦職人の世界では、もりそば用の濃厚なつゆを「辛汁(からじる)」、かけそば用の温かい希釈つゆを「甘汁(あまじる)」と呼び明確に区別します。もりそばのつゆは、冷水で締めた麺に少量絡ませた瞬間に強い旨味と輪郭を感じさせるよう、濃口醤油とみりん、砂糖を寝かせた本がえしに、厚削りの節類から抽出した濃密なだしを合わせます。
一方、かけそばのつゆは、丼いっぱいの汁を最後まで飲み干せる黄金比として「かえし1に対してだし8〜10」程度まで伸ばされます。さらに、関東では濃口醤油の香ばしさと鰹節の力強いパンチが効いた黒いつゆが好まれるのに対し、関西では薄口醤油と昆布・うるめ節をベースにした黄金色の澄んだだしが主流になるなど、地域によっても味覚の設計思想が異なります。