物語が真のクライマックスを迎えるのは、タイジが精神的な自立を果たした後の展開です。多くの虐待被害者が親と絶縁する道を選ぶなか、タイジが下した決断は驚くべきものでした。それは、過去の痛みを清算するためではなく、「自分自身を本当に好きになるために、もう一度母と向き合う」という険しい選択でした。
タイジは母のアパートへ定期的に通い、手料理を作り、どんなに拒絶されても笑顔で接し続けました。当初は冷酷に追い返そうとしていた母でしたが、タイジの変わらぬ温かさと粘り強さに触れるうち、何重にも閉ざされていた心の鎧を少しずつ剥ぎ取っていきます。ある日、手作りの料理を前にした母の口からこぼれたのは、「たいちゃん、まぜまぜして」という幼子のような甘えの言葉でした。何十年もの歳月を経て、母と息子はついに奇跡的な心の和解を果たしたのです。
しかし、運命はあまりにも残酷でした。親子の絆を取り戻したほんの数日後、母は突然倒れ、帰らぬ人となってしまいます。気になる母親の死因はくも膜下出血(脳出血)でした。あまりにも唐突すぎる永遠の別れに、タイジは深い悲痛に打ちひしがれます。それでも、彼の心に残ったのは絶望ではありませんでした。最期の瞬間に母へ愛を届けられたこと、そして母もまた自分を受け入れてくれたという確固たる実感が、彼をこれからの人生へと力強く押し出す光となったのです。