語られる機会が多いものの、混同されがちなのが「MC」と「ラッパー」というふたつの呼称だ。前者は場を仕切り盛り上げる司会者(Master of Ceremonies)に由来し、後者は楽曲上で韻を踏み言葉を吐き出す表現者を指す。しかし、ヒップホップカルチャーの歴史において、両者の境目は常により深い美学によって結びつけられてきた。
単に既成の歌詞を滑らかに口にするだけでは、本物のMCとは呼ばれない。ヒップホップの現場では、その場の空気感を察知し、DJの出す音に乗って即興で観客をロックする力量が問われる。つまり、言葉を巧みに操る技巧を持った上で、文化の精神を背負ってパフォーマンスを行う者こそが、真の意味でのマイクの保持者なのだ。