十朱久雄の真価は、映画監督が「どうしてもこの役は十朱久雄でなければならない」と熱望した出演作品の幅広さにあります。巨匠・小津安二郎監督の『秋刀魚の味』や『小早川家の秋』で見せた、昭和のサラリーマンや親類役の自然な掛け合いは、今なお邦画史上の名シーンとして語り継がれています。また、黒澤明監督の『天国と地獄』『赤ひげ』、さらには国民的長寿映画『男はつらいよ』シリーズに至るまで、彼が画面に登場するだけで物語に圧倒的な生活感と説得力が宿りました。
活動の場は実写の映画やドラマにとどまりませんでした。1960年代に日本の家庭へ爆発的に普及したテレビの草創期には、声優としても卓越した表現力を発揮。海外名作コメディドラマ『奥さまは魔女』の広告代理店社長ラリー・テイト役の日本語吹き替えは、コミカルでありながら小粋な大人の魅力を完璧に表現し、日本中のお茶の間を魅了しました。