インターネット上や俗説でまことしやかに語られるモズの早贄に関する情報のなかには、生物学的事実とはかけ離れた誤解が今なお根強く残っています。代表的な盲点を是正しておきましょう。
誤解1:モズは殺戮を楽しむ残忍な性格だから串刺しにする?
これは最もありがちな擬人化による偏見です。動物界において、捕食は純粋な生存活動であり、サディスティックな嗜虐心による行動ではありません。先述した通り、猛禽類のような強靭な握力を持たないモズにとって、獲物を枝に刺すのは「手を使わずにナイフとフォークを使いこなす」ための力学的必然性に裏打ちされた行動です。
誤解2:刺した獲物はすべてカラスに奪われて無駄になっている?
確かに盗難リスクは存在します。しかし、モズは獲物を刺す位置を巧妙に選定しています。大型のカラスや猛禽類が侵入しにくい、トゲの密集した低木の内側や、外敵の死角となる枝の付け根などを狙って固定します。野外データ上も、盗難によって失われる割合よりも、自ら厳冬期に回収してエネルギー源へと変換する割合の方がはるかに高いことが実証されています。
誤解3:メスは早贄を作らない?
これも事実と異なります。越冬期にはメスも単独でナワバリを持ち、高鳴きを行い、早贄を作ります。ただし、繁殖期直前に「歌の質を高めてメスを誘引する」という性淘汰のプレッシャーに晒されるのはオスであるため、真冬における早贄の保有が繁殖成功に与える恩恵は、オスにおいてより劇的かつ決定的な意味を持ちます。