日本国内のみならず、漢字の本場である中国に目を向けると、文化的なエネルギーに満ちた超画数文字が群雄割拠しています。その代表例が、日本でもコンビニエンスストアのフェアや専門店で爆発的なブームを巻き起こした陝西省の名物麺料理「ビャンビャン麺」の「ビャン(57画)」です。
この文字は正統な辞書から生まれたものではなく、庶民の間で口伝されてきた「麺打ちの音(平たい麺を調理台に叩きつけるビャンという音)」を漢字化した擬音文字です。現地には「穴(あなかんむり)に月が入り、馬が糸をつけて……」という覚え歌が存在し、歌を口ずさみながらでないと書けない文字として親しまれてきました。
長らく「どのフォントにも入っていない謎の文字」とされてきましたが、2020年に国際規格であるUnicode 13.0の「CJK統合漢字拡張G」領域に正式採録(U+30EDE)されました。これにより、対応フォントを備えた最新環境であれば、スマートフォン上でも正しく文字としてレンダリングできるようになっています。
さらに民俗信仰の深淵に足を踏み入れると、中国の道教で用いられる「符字(お札に書く呪文の文字)」には、雷や鬼を幾重にも合体させた100画超え、最大で160画を超えるような呪術的文字が存在します。ただしこれらは文字体系というよりも「魔除けの紋様」としての性格が強く、言語学的な単語としての境界線上に位置づけられています。