原木しいたけ栽培において、最も多くの初心者が陥る罠が「きのこは薄暗い日陰を好むから、家の裏手のジメジメした場所に置いておけば勝手に生えてくる」という思い込みです。結論から言えば、日光が一切届かず風通しの悪い湿地帯のような場所は、しいたけ原木にとって最悪の環境です。
しいたけ菌(Lentinula edodes)は好気性菌であり、木化組織を分解して増殖するために新鮮な酸素を大量に消費します。常にぬかるんでいる北側の路地や、ブロック塀と建物に挟まれた空気の淀む隙間に原木を放置すると、木材腐朽菌のライバルであるトリコデルマ(緑カビ病菌)や雑菌が優占種となり、しいたけ菌は窒息して死滅します。森林総合研究所などの知見でも明らかなように、理想的なのは「湿度がある程度保たれつつも、適度な微風が常に通り抜け、直射日光が遮られた散乱光が届く場所」です。
逆に、しいたけ原木に直射日光を直接当てることは致命的です。原木の樹皮表面温度が35℃を超えると菌糸の衰退が始まり、40℃に達すると数時間で細胞が熱死します。つまり、「真っ暗でジメジメした場所」でも「カンカン照りの乾燥地」でもなく、木漏れ日がちらつき、木肌を撫でるそよ風が抜ける環境を作れるかどうかが、翌年の収穫量を文字通りゼロか数百個かに分ける境界線となります。