『人生の扉』が世に出たのは、2007年5月にリリースされた竹内まりや通算9枚目のオリジナルアルバム『Denim』でした。当時、50代の門をくぐった彼女自身の実感が鮮烈に反映された本作は、協和発酵(現・協和キリン)の企業CMソングとしても起用され、瞬く間に社会的な共鳴を呼び起こしました。
ポップミュージックの世界において、特に女性アーティストが自らの実年齢や「老い」を具体的な数字(50歳、60歳…)として歌詞に組み込むことは、当時の音楽業界では極めて異例の試みでした。若さや瑞々しさが至上命題とされがちだった商業音楽の常識に対し、竹内まりやは「ジーンズ(Denim)が年月を経て擦り切れ、色落ちすることで唯一無二の味わいを持つように、人間の人生も年輪を重ねるほどに深みを増していく」という確固たる美学を提示したのです。
サウンド面でも、夫である山下達郎による綿密なプロデュースとアレンジに加え、名門バンド「センチメンタル・シティ・ロマンス」のメンバーらが演奏に参加。アメリカン・ルーツ・ロックの温もりを宿したオーガニックなアコースティックアンサンブルが、普遍的な人生観を飾らずに支える名演を生み出しました。