日本人旅行者が最も困惑する現象が「洋式便器なのに便座(プラスチック製の座面)が取り外されている」ケースです。陶器のフチがむき出しになった便器を見て、故障中や盗難を疑う声も少なくありませんが、これにはイタリアのトイレで便座がない明確な理由が存在します。
第一の理由は、公共空間における「破損とメンテナンスの手間」の回避です。不特定多数が利用する公衆トイレでは、便座の上に靴のまま乗ってしゃがむ利用者が後を絶たず、プラスチック製のヒンジが頻繁に割れてしまいます。修繕コストを削減するため、最初から便座を取り付けない、あるいは壊れた段階で撤去してしまう施設が多いのが実情です。
第二の理由は「衛生管理に対する現地特有の割り切り」です。誰が座ったかわからない便座に肌を直接触れさせることを嫌う文化圏であるため、便座があっても中腰(空気椅子)で使用する人が多数派を占めます。そのため、便座自体をなくして陶器のみにした方が、清掃時に強力な洗剤や高圧水で丸洗いしやすいという施設側の合理的な判断が働いています。現地では、便座クリーナーを持参するか、腰を浮かせて利用するのが標準的な対処法となっています。