動物病院の臨床現場において、猫の腹水が溜まる原因と理由は病理学的に大きく3つの機序(浸透圧低下・静脈圧上昇・血管透過性亢進)に分類されます。単なる内臓の炎症にとどまらず、生命維持の基盤となる循環系や免疫系が破綻することで、血管やリンパ管から液体が腹腔内へ漏出します。
特に近年の動物医療現場で依然として警戒されているのが、1歳未満の若齢猫や多頭飼育環境下で好発する猫伝染性腹膜炎FIPの初期症状です。猫腸コロナウイルスが体内で強毒変異して発症するこの病気のウェット型(滲出型)では、強い血管炎によって黄色く粘稠度の高い腹水が急速に溜まります。都内の高度医療センターに愛猫を緊急搬送した飼い主の手記には、当時の異変が生々しく記録されています。
「保護猫カフェから迎えて半年の愛猫が、急に遊ばなくなり、フードの食べ残しが目立つようになりました。お腹だけがポッコリ出てきたので『便秘か子猫特有の幼児体型かな』と数日様子を見ていたところ、ある朝から耳の内側が黄色くなり(黄疸)、抱き上げるとお腹がずっしりと重く水が入っているようでした。病院に駆け込んだときには、すでに腹腔内に500ミリリットル以上の黄色い水が溜まっていました」
一方、中高齢(7〜10歳以上)の猫で目立つのが猫の腹部膨満と心不全の経緯です。猫の心筋症の中で最も多い「肥大型心筋症(HCM)」が進行し、右心不全に陥ると、全身から心臓へ戻る静脈血がうっ滞して毛細血管の圧力が上昇し、変性漏出液として腹水が染み出します。さらに進行すると、腹部だけでなく胸部にも水が溜まる胸水を併発し、猫の腹水と呼吸が荒い症状が前面に現れます。猫は本来、口を開けて息をする動物ではありません。お腹を大きく上下させながら肩で息をしている、あるいはハアハアと開口呼吸をしている状態は、即座に酸素吸入を要する超緊急事態です。