コアラの激減は、単一の災害だけで起きたわけではありません。気候危機、伝染病、生態系の質の低下という3つの要因が連鎖し、負のスパイラルを形成しています。
第1の要因は、気候変動に伴う未曾有の森林火災です。オーストラリア全土を襲った2019〜2020年の「ブラック・サマー」では、日本の国土面積の半分に迫る広大な森林が焼き尽くされました。樹上で生活し、動きの遅いコアラは炎から逃げることができず、推定6万頭以上が死傷するか住処を失いました。火災を生き延びた個体も、焼け野原の中で飢えと脱水に直面し、命を落とすケースが後を絶ちませんでした。
第2の要因は、野生下で猛威を振るうコアラクラミジア感染症(Chlamydia pecorum)です。この細菌感染症は性交渉や母子感染によって広がり、重度の結膜炎による失明、尿路感染による激痛を伴う尿漏れ、そしてメスの生殖器不全(不妊化)を引き起こします。生息地を追われたコアラが極度のストレスに晒されることで免疫力が低下し、感染爆発に拍車がかかっています。繁殖可能なメスが不妊化することで、群れ全体の再生能力が根底から奪われているのです。
そして第3の要因として学術界が警告しているのが、ユーカリの質の低下という見えない飢餓です。大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇により、ユーカリの樹木生理に異変が起きています。最新の植物生態学の研究では、CO2濃度の上昇に伴いユーカリの葉に含まれるタンパク質などの栄養分が減少し、逆に毒素であるタンニンの割合が増加していることが判明しました。コアラは毒素を解毒しながらユーカリを食す特殊な消化器官を持っていますが、葉の栄養価が落ちたことで、いくら食べても栄養不足に陥り、衰弱する個体が相次いでいます。