だが、ガストロノミーの世界は沈黙していない。伝統の瓦解と歩調を合わせるように台頭してきたのが、フードテックがもたらす「第二の珍味」だ。とりわけ注目を集めるのが、鴨やガチョウの受精卵から採取した細胞をバイオリアクターで増殖させる「培養フォアグラ」である。脂の融点、舌の上でとろけるテクスチャー、独特の鉄分を含んだコクまで、分子レベルで再現された代替肉がすでに三つ星シェフたちの厨房へサンプルとして届けられている。
トリュフも例外ではない。合成香料でごまかした安価なトリュフオイルとは一線を画す、酵母を用いた精密発酵技術による「天然同一の香り成分」が開発された。ブラインドテストでは熟練のソムリエですら天然モノとの判別を躊躇するクオリティに達している。「命を奪わず、自然を削らずに得られる美味」を革新と呼ぶべきか、それとも伝統の冒涜と切り捨てるべきか。厨房の奥底で、料理人たちはかつてない哲学的問いに直面している。