『水戸黄門』の屋台骨を支えてきたのは、なんといっても主役である水戸光圀公を演じた歴代の名優たちです。それぞれが自身の芸風と時代の空気を融合させ、独自の光圀像を打ち立てました。
初代:東野英治郎(第1部〜第13部/1969〜1983年)
番組の礎を築いた初代光圀。映画界で名バイプレイヤーとして活躍していた東野英治郎が演じた黄門様は、「カッカッカッ」という野太い高笑いがトレードマークの、頑固で人間味あふれる庶民派の爺様でした。威厳を振りかざすのではなく、旅先で泥にまみれ、民百姓と同じ目線で怒り笑う姿が高度経済成長期の日本人の心を掴みました。東野英治郎は1994年に86歳で逝去しましたが、彼が創り上げた笑い方や佇まいは、後続のすべてのシリーズにおける原点となっています。
2代目:西村晃(第14部〜第21部/1983〜1992年)
それまで悪役や切れ者役の印象が強かった西村晃へのバトンタッチは、当初世間を大いに驚かせました。しかし西村晃は、白髭を蓄えたスマートで上品な「知性派黄門」を見事に確立。時にいたずらっぽく、悪人の裏をかく狡猾さを兼ね備えた演技で、初代とは異なる魅力で高視聴率を維持しました。西村晃は1997年に74歳でこの世を去りましたが、悪役出身だからこそ悪の心理を熟知した黄門様という新機軸は絶大な支持を集めました。
3代目:佐野浅夫(第22部〜第28部/1993〜2000年)
佐野浅夫が演じたのは、歴代で最も情に厚い「泣き虫黄門」でした。苦境にあえぐ町人や農民の境遇に誰よりも早くもらい泣きし、悪政に怒りを震わせる慈愛の演技は、バブル崩壊後の不安定な世相に温かな癒やしを提供しました。佐野浅夫は2022年に96歳の大往生を遂げるまで、慈父のような存在感を放ち続けました。
4代目:石坂浩二(第29部〜第30部/2001〜2002年)
シリーズ最大の異色作にして大胆な改革となったのが石坂浩二の起用です。従来のトレードマークであった顎髭を剃り落とし、白髪交じりの地毛で登場。史実の水戸光圀に近い「学者肌でクールな開明派領主」を目指し、劇伴や演出も一新されました。しかし後述する健康問題や旧来ファンからの反発もあり、わずか2部・約1年半で降板。石坂浩二本人は大病を克服し、現在も日本を代表する知性派俳優としてドラマやバラエティで精力的に活動しています。
5代目:里見浩太朗(第31部〜第43部/2002〜2011年)
かつて「2代目助さん」として16年半にわたり番組を支えた里見浩太朗が、満を持して光圀役に就任しました。助さん経験者が黄門様に昇格するという人事の妙に加え、歴代屈指の太刀回りの美しさと大御所としての風格は、石坂時代の急進的な改革で動揺した視聴者を一気に安心させました。地上波レギュラー放送のフィナーレを見届けた里見浩太朗は、卒寿を視野に入れた現在も矍鑠(かくしゃく)として舞台やドラマで唯一無二の殺陣を披露しています。
BS-TBS版:武田鉄矢(2017年・2019年)
地上波終了から6年後、BS-TBSのオリジナル時代劇として復活した際に白羽の矢が立ったのが武田鉄矢です。武田鉄矢が演じたのは「偉人ではなく町医者のような黄門様」。威厳よりも説教臭さと人間臭さが前面に出るキャラクター造形は、放送当時ネット上で激しい賛否両論を巻き起こしました。