昭和残侠伝シリーズに代表される初期の任侠映画は、美化された道義心や「耐え忍ぶ男の美学」を中心に描いていた。映画の主題歌として高倉健自身が歌った楽曲などは、レコード市場でも大ヒットを記録し、居酒屋や街頭で日常的に口ずさまれるほどの市民権を得ていたのだ。
しかし、1970年代に入ると実録路線への転換が起きる。その決定打となったのが仁義なき戦いであった。そこでは従来の義理人情の美談は打ち砕かれ、欲望と裏切り、リアルな抗争の凄惨さが前面に押し出された。これに伴い、楽曲のテイストも「耐え忍ぶ哀愁のメロディ」から「スリリングで暴力的、リアリズムに満ちたサウンド」へと変容を遂げていく。任侠カルチャーの楽曲変遷は、日本の裏社会に対する社会の視線とその時代の空気感を正確に映し出す鏡であった。