NHKオンデマンドがなぜ有料なのかという疑問を紐解く最大の鍵は、放送法と独立採算制、そして総務省認可事業という法的な建て付けにあります。NHK受信料二重課金の理由とされる背景には、自由市場における民業圧迫を回避するためのシビアな政策意図が隠されています。
NHKは、日本全国の世帯から集めた年間6,000億円規模の受信料を原資として番組を制作しています。もしNHKがこの莫大な受信料を使い、過去の膨大な番組アーカイブをインターネット上で「完全無料」で開放してしまったらどうなるでしょうか。民放キー局が運営するTVerや、民間企業が多額の資金を投じて運営する有料VODサービス(U-NEXT、Hulu、Netflix等)は、圧倒的な資金力を持つ公的巨人に太刀打ちできず、市場が破壊されてしまいます。
このため総務省は、NHKオンデマンドを本来業務(放送)とは切り離した任意の「認可事業」と位置づけ、受益者負担の原則を厳格に義務付けました。すなわち、「ネットで過去のアーカイブを観たい特定の人だけが費用を負担し、一般の受信料を配信サーバー代やデジタル権利処理費用に補填してはならない」という独立採算ルールです。一般のテレビ視聴者が支払った受信料をネット利用者のために流用させないための防波堤が、結果として視聴者側に「二重課金」という不条理な見え方をもたらしています。
さらに、過去の番組をネット配信するためには、出演者、脚本家、音楽著作権者(JASRAC等)に対して、放送時とは別枠の「二次利用許諾料」を支払う必要があります。昭和や平成の名作ドラマほど権利関係が複雑であり、多額の権利クリアランス費用が発生するため、これらを追加徴収なしで賄うことは制度上不可能なのです。