石そのものは何百年も形を保つ鉱物ですが、擁壁という土木構造物として捉えた場合、石積み擁壁の寿命は決して永久ではありません。国土交通省の技術指針や一般財団法人の構造調査データによれば、練積み擁壁の物理的寿命はおよそ50年〜60年、空積み擁壁に至っては30年〜40年程度で変位や孕み出しのリスクが急上昇します。
擁壁が崩れる物理的プロセスには明確なトリガーが存在します。最大の要因は「間隙水圧(かんげきすいあつ)」の上昇です。集中豪雨や台風によって背面の土壌に大量の雨水が浸透すると、土の重量そのものが跳ね上がるだけでなく、逃げ場を失った地下水が石壁を内側から外側へと押し出す莫大な水圧へと変化します。
ここで命綱となるのが水抜き穴の重要性です。建築基準法施行令および宅地造成等規制法の技術基準では、擁壁の壁面3平方メートルごとに内径7.5センチメートル以上の耐食性水抜きパイプを1箇所以上設置することが義務付けられています。古い間知石擁壁では、この水抜き穴が最初から開けられていないか、経年によってパイプ内に土砂や木の根、ゴミが詰まり、完全に機能不全に陥っている個所が頻繁に見受けられます。
水が抜けなくなった擁壁は、内部に巨大な水風船を抱えているのと同じ状態です。石の隙間から土砂が流出し、背面に空洞が生まれ、最終的に石垣全体が外側へとせり出す「はらみ現象」が発生します。この状態で震度5弱以上の揺れが加わると、一気に連鎖的な倒壊へと至る擁壁崩壊リスクが現実のものとなります。崩壊すれば自宅が傾くだけにとどまらず、土砂が直下の隣家や道路を直撃し、尊い人命を奪う大惨事を引き起こします。