審美的なメリットの裏にある最大の盲点は、生体防衛機能の喪失です。人間の鼻毛には、呼吸時に吸い込む空気からホコリ、花粉、細菌、ウイルスなどの微粒子を絡め取る物理的フィルター機能と、鼻粘膜の湿度を一定に保つ加湿調整機能という極めて重要な生体役割が存在します。
耳鼻咽喉科専門医が警鐘を鳴らすのは、いわゆる「デンジャー・トライアングル(顔面危険三角)」と呼ばれる解剖学的領域への悪影響です。鼻から上唇周辺の静脈系は、頭蓋骨の内部にある海綿静脈洞という太い静脈へと直接つながっています。鼻毛を毛根から破壊した傷口から細菌感染が起きた場合、最悪のシナリオでは感染症リスクが脳内へと波及し、海綿静脈洞血栓症や髄膜炎といった生命を脅かす重篤な疾患を引き起こす危険性を内包しています。
さらに、毛をすべて取り除いた結果、冷たく乾燥した外気が直接喉や気管支へ流れ込むようになり、「風邪を引きやすくなった」「冬場に気道が痛む」「絶えず鼻水が垂れてくる」といった後遺症に近い悩みを訴えるケースも後を絶ちません。美しさを追求するあまり、健康維持の基幹システムを自ら破壊してしまうという皮肉なジレンマが生じています。