長年、視聴者の間では「清太の父親は実は生き残っていたのではないか」「戦後、高級官僚として復帰したのではないか」という火垂るの墓の父親生存説や都市伝説が囁かれてきました。この噂が生まれた背景には、原作者の実人生と作中設定の混同があります。
火垂るの墓の原作を手掛けた野坂昭如の実父・野坂スキユキ氏は、戦前・戦後にわたり土木技術官僚として活躍し、後に新潟県副知事を務めた実在の人物であり、戦争を生き延びています。しかし、作中の清太の父親は、野坂氏の養父(神戸で被災し死去)と実父のイメージを再構築した完全なフィクションのキャラクターです。
劇中の描写において、父親の生死を決定付ける要素は明白です。終戦直後、銀行で母の預金を引き出した清太は、居合わせた市民の会話から「連合艦隊はとっくに全滅沈没した」という事実を突きつけられます。父宛てに出した複数の手紙に対する返信は途絶しており、父が乗艦していた巡洋艦(艦型から重巡洋艦「摩耶」クラスがモデルとされる)は、フィリピン沖海戦等で撃沈されたと見るのが歴史的にも作中設定的にも整合します。
父の生存説は、父親が健在であれば兄妹が救われたはずだという観客の痛切な願望が生み出した都市伝説に過ぎず、公式設定および劇中の因果関係において父親は戦死していると結論付けられます。