ペット飼育者が退去時に直面する最大のハードルが、原状回復費用をめぐる金銭紛争です。国民生活センターや賃貸管理トラブルの現場取材では、敷金が一切戻らないばかりか、退去時に30万〜50万円以上の追加請求を受けたという入居者の悲痛な叫びが日常的に寄せられています。なぜ、これほどまでにペット可賃貸退去費用トラブルが頻発するのでしょうか。
その最大の要因は、契約時に設定されるペット可敷金積み増し理由とその精算条項にあります。通常、ペットを飼育する場合は敷金が「1〜2ヶ月分」積み増しされますが、契約書に「敷金積み増し分は退去時に全額償却(敷引き)とする」という特約が盛り込まれているケースが大半です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常損耗や経年劣化の修繕費用は貸主負担が原則とされています。しかし、ペットによる壁の引っかき傷、柱の噛み跡、粗相による床の変色や悪臭の染み付きは「借主の善管注意義務違反」とみなされ、ガイドラインの保護対象から外れる傾向があります。
ある大手管理会社の担当者は次のように証言します。「猫の尿臭や壁クロスの傷は、次の入居者を迎えるにあたってオゾン脱臭や下地ボードの全交換が必要になります。特約に『退去時の専門クリーニング費用およびオゾン消臭費用一式は借主負担』と明記されていれば、裁判例でも有効と判断されることが多く、敷金がすべて消えた上に追加請求が発生する構造になっています」。初期費用の安さだけで物件を選び、退去時特約の条項を見落とすことが、致命的な金銭リスクを招く最大の盲点です。