現在、神戸市灘区篠原本町にある六代目山口組の総本部を訪れても、かつてのような黒塗りの高級車列や物々しい組員の姿は見られない。門扉は固く閉ざされ、敷地の周囲には兵庫県警の機動隊車両が常時睨みを利かせている。
公安委員会から「特定抗争指定暴力団」に指定されたことにより、警戒区域内における以下の行為が法律(暴力団対策法)によって完全に禁止されている。
- 組事務所に立ち入ること、または事務所として使用すること
- 対立組織の組事務所や幹部宅の周辺をうろつくこと
- 指定地域内で、組織の構成員が5人以上で集まること
これらに違反しただけで、警察は裁判所の令状なしに即座に逮捕(直逮捕)できる強力な権限を行使する。この法的包囲網により、冠婚葬祭や毎月の定例会、納会といった従来のヤクザ組織が威信を示してきた行事は一切開催不可能となった。
さらに現場の構成員を極限まで追い詰めているのが、各都道府県で導入された暴力団排除条例の猛威である。現在、暴力団員として警察のデータベースに登録されている者は、自らの名義で以下のような日常生活を送ることが法的に不可能となっている。
- 銀行口座の開設および既存口座の維持(発覚すれば即座に凍結・解約)
- クレジットカードの発行および使用
- アパートやマンションなど居住用賃貸物件の契約(詐欺罪が適用される)
- 携帯電話・スマートフォンの割賦購入および回線契約
- 自動車保険や生命保険の新規契約
「組のバッジをつけて街を肩で風切って歩く」どころか、コンビニの電子決済すらままならず、子供の学校行事に参加することすら隠れて行わなければならない。元幹部の一人は法廷証言や手記の中で、「もはや刑務所の中にいるのと変わらない社会的隔離だ」と吐露している。これが、美化されたフィクションの裏にあるヤクザの冷徹な日常である。