「野比」という独特の地名を聞いたとき、多くの人が反射的に思い浮かべるのが、藤子・F・不二雄氏の代表作『ドラえもん』の副主人公「野比のび太」です。ネットの質問サイトやSNS上では、「のび太の家はこの地域にあったのか」「原作者が野比海岸を訪れて名付けたのではないか」といった仮説が長年語り継がれてきました。
しかし、当時の制作秘話や公式な記録を精査すると、「野比のび太」の命名と横須賀市野比の地名の間に直接的な因果関係は確認されていません。藤子プロの公式見解や解説資料によれば、のび太の名前は父親である野比のび助が「すくすくとのびのび育ってほしい」という願いを込めて命名したとされており、苗字の「野比」もそのキャラクター性を補強する言葉遊びから着想されたとする説が一般的です。
作品内で描かれる野比家の住所設定も「東京都練馬区月見台」と明確に定められており、横須賀市が舞台モデルとなったわけではありません。ただし、藤子・F・不二雄氏が三浦半島をドライブや取材で訪れた際に地名を目にした可能性を完全には否定しきれないことから、ファンの間では「偶然の一致が生んだロマン」として親しまれ続けています。
また、もうひとつの盲点として、改名当時に持ち上がった「アルファベット駅名は風情を壊す」という地域論争があります。1998年の改称時、地元古参住民からは「由緒ある野比の漢字をそのまま残すべきだ」「読みにくい」といった反発の声も一部で上がりました。しかし、京急電鉄と横須賀市は「YRP」を頭に付与しつつ「野比」の漢字を後半に残す妥協案を採用。結果として、地域の歴史的アイデンティティと国際拠点の先進性を共存させる絶妙なバランスに落ち着いた経緯があります。