見城徹の経歴を紐解く上で、起点となるのは廣済堂出版時代、そして1975年に中途入社した角川書店での圧倒的な編集実績です。月刊『野性時代』副編集長を経て『野生時代』編集長、さらには文芸編集部長を歴任し、つかこうへい、森村誠一、赤川次郎、村上龍、北方謙三といった当代随一の作家陣と濃密な人間関係を構築しました。作家宅に通い詰め、手書きの手紙を何十通も送り続け、相手が根負けするまで己の熱量をぶつける——その泥臭くも純度の高い編集手法で、角川文庫の黄金期を牽引したのは紛れもない事実です。
当時、社内最年少で取締役に就任しながら、1993年に突如として決断された角川書店からの独立理由は、出版界に巨大な衝撃を与えました。角川春樹氏のコカイン密輸事件に端を発するお家騒動の渦中、見城氏は「自らの信じる出版を貫くためには、巨大化した組織の論理から脱却するしかない」と決意。作家・五木寛之氏をはじめとする文壇の有力者たちが背中を押し、郷ひろみ氏や尾崎豊氏との深い関わりで知られる敏腕編集者が会社を去る姿は、当時の週刊誌や文芸誌で連日センセーショナルに報じられました。
1993年11月、見城氏はわずか数名の手兵とともに幻冬舎を設立。創業時に掲げた「歴史の証言者たれ」という旗印のもと、1994年3月の第一弾刊行物として五木寛之『大河の一滴』、村上龍、吉本ばなな、山田詠美、北方謙三、石原慎太郎という超豪華執筆陣の書き下ろし6冊を同時発売しました。結果、全作品がベストセラーランキングを席巻。見城氏が築いてきた血の通った人脈と、リスクを恐れずに勝負を賭ける胆力が、幻冬舎という独立系出版社の強固な土台を作り上げました。