「溝はまだ5ミリ以上残っているから買い替えるのはもったいない」「毎日通勤で使っているわけではないから大丈夫」――こうしたドライバーの思い込みこそが、整備現場が最も警戒する落とし穴です。タイヤは走行による摩擦摩耗だけでなく、時間とともに進行する「ゴムの酸化・硬化」という避けられない宿命を背負っています。
新品のタイヤには、しなやかさを保ち路面に吸い付くための油分(オイル成分)や老化防止剤がたっぷりと練り込まれています。ところが製造から年月が経つと、大気中のオゾンや太陽光の紫外線、走行時の発熱によって油分が徐々に揮発していきます。油分が抜けたゴムは、輪ゴムが引き延ばされるとブツブツと切れてしまうのと同じように柔軟性を失い、プラスチックのようにカチカチに硬化してしまいます。
硬化したタイヤを放置して走行を続けた場合、次のような致命的トラブルが牙を剥きます。
- 制動距離の劇的な悪化:ゴムが路面の細かな凹凸を掴めなくなるため、特に雨天時のウェットグリップが激減。新品時に比べて制動距離が10メートル以上伸びるケースも珍しくありません。
- ハイドロプレーニング現象の誘発:トレッドパターンが変形しにくくなり、排水性が著しく低下して水膜の上に乗り上げやすくなります。
- トレッドセパレーション(層間剥離):タイヤ内部に張り巡らされたスチールコードと表面のゴム層が接着力を失い、走行中にゴムがベリベリと剥がれる現象です。
- 高速道路でのスタンディングウェーブ現象とバースト:弾性を失ったタイヤが高速度で連続変形すると異常発熱を起こし、一瞬で破裂に至ります。
警察庁やNEXCO各社が公表する高速道路でのトラブル統計において、タイヤ関連の故障・破損は常にロードサービス出動理由のトップクラスを占めています。その多くが、溝の残量だけに満足し、側面の製造年数に無頓着だった車両によって引き起こされているのが実情です。