台風の進路予測において、日本の気象庁(JMA)、米海軍・空軍が運用する米軍合同台風警報センター(JTWC)、そして世界屈指の計算能力を誇るヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)は、三大情報源として頻繁に比較されます。同じ台風を追跡しているにもかかわらず、進路予想図に食い違いが生じる背景には、各機関が採用している数値予報モデルと運用目的の根本的な差異が存在します。
気象庁は、日本および東アジア域に最適化された全球数値予報モデル(GSM)や局地モデルを駆使し、日本の地形効果(山岳による風の減速や降水強化)を緻密に反映させています。一方、米軍のJTWCは主として米軍基地や艦船・航空機の安全運用を目的としており、米国立気象局のGFS(全球予報システム)や海軍独自のNAVGEMなど複数モデルを統合した運用を行っています。さらに、ECMWFは全球の中期予測(5日〜10日先)において世界最高水準の計算グリッド解像度を誇るIFS(統合気象予報システム)を採用しています。
また、風速の計測基準にも注意が必要です。米軍(JTWC)は「1分間平均風速」を採用しているのに対し、気象庁は「10分間平均風速」を基準としています。同じ台風であっても、突風成分が強く反映される1分間平均のほうが数値が約10〜15%高く算出されるため、「米軍のほうが常に台風を強く評価している」ように見える現象が起こります。