大型の雄羊ともなると体重は80kgから120kgを超え、突進時の走行速度は時速30km〜35kmに達します。この巨体がトップスピードで人間の下半身や腰回りに激突した際の運動エネルギーは、数十メートル走った原付バイクに衝突される衝撃に匹敵します。結果として生じる羊頭突き人間への危険性は極めて深刻であり、決して「動物との微笑ましいアクシデント」では済まされません。
英国の安全衛生庁(HSE)が公表している農業事故事例や、国内外の医療機関の受傷報告によると、成人が羊に突き倒されたことで大腿骨骨折や骨盤骨折、肋骨骨折に伴う肺気胸、さらには肝臓・脾臓の破裂による腹腔内出血を起こした事例が複数報告されています。とりわけ羊頭突き骨折事故の多くは、無防備な背後や側面から不意打ちを食らった際に発生しており、倒れた衝撃でコンクリート地面に後頭部を強打する二次災害のリスクも極めて高くなっています。
ここで一つの疑問が生じます。これほどの猛烈な衝撃で衝突しながら、なぜ羊自身は脳震盪を起こさず、涼しい顔で連続攻撃を繰り出せるのでしょうか。その秘密は、驚異的な進化を遂げた羊の頭骨構造と衝撃吸収システムにあります。
獣医生理学の研究によると、羊の頭蓋骨は人間の約3倍以上の骨密度と厚みを持ち、内部は多孔質の網目状になった海綿骨(Diploe)が二層の硬い骨に挟まれるサンドイッチ構造を形成しています。さらに、頭蓋骨の縫合線(接合部)が波状に入り組むことで衝撃波を分散させ、前頭洞(大きな空洞)がクラッシャブルゾーン(緩衝材)として機能します。加えて、頸動脈と静脈の血流圧を瞬時に変化させて脳浮腫を防ぐ特殊な循環系メカニズムを備えているため、自らの脳を致命的な衝撃から完全に防護できるのです。