事件の中心に君臨していた角田美代子は、暴力団員のような強面ではなく、一見すると世話好きな「下町の小母さん」の顔をして標的の家庭に近づいた。些細な言いがかりや家庭内のトラブルに介入し、執拗な恫喝と懐柔を繰り返して家族の主導権を握る。彼女が用いた手口は、ターゲットにした親族同士に暴力の矛先を向けさせ、共犯関係を強要するという極めて悪辣なものだった。
美代子の支配下に置かれた人々は、逃走の意志すら奪われ、バルコニーに設置された粗末な小屋に監禁されるなどの過酷な虐待に晒された。食事を制限され、睡眠を奪われ、極限状態に追い込まれた人間が、実の親や兄弟に手をかける。自らの手を直接汚さず、他者を操って互いを破壊させる構造こそが、この事件の最大の暗部である。主犯の死によって多くの真相が闇に葬られたものの、奪われた命と崩壊した名家の尊厳は二度と戻らない。