日常的に混同されやすい「ワタナベ」の3大表記だが、字形を分解して観察すると、その成り立ちと構造には明確な境界線が引かれている。ポイントとなるのは、しんにょうの内側にある「つくり」の右下部分だ。
まず、私たちが新聞や公的文書で最も頻繁に目にする「渡辺」は、1946年の当用漢字表、そしてその後の常用漢字表に採用された新字体である。「辺」の文字はわずか5画で構成され、現代の標準表記として定着している。
これに対し、画数が多く複雑なのが「渡邊」と「渡邉」だ。この2文字は一見すると瓜二つだが、細部を拡大して確認すると決定的な相違点がある。
「渡邊」の右下部分は「方」になっている。上から「自」「冖(わかんむり)」「八」、そして右下に「方」を配置し、それらを「しんにょう」が包み込む構造だ。これがいわゆる伝統的な旧字体に該当する。
一方、「渡邉」の右下部分は「方」ではなく「口」となっている。冠の「自」「冖」「八」までは渡邊と共通しているものの、最下段のパーツが「口」に置き換わっている点が唯一にして最大の特徴だ。活字のフォントや手書き文字では見落とされがちだが、戸籍上はまったく別の文字として峻別されている。
また、多くの人が疑問を抱く「しんにょうの点の数」については、印刷標準字体やJIS漢字コードの改定履歴(JIS90からJIS2004への移行)によって表示環境が左右される。文字情報基盤の標準規格において、「渡邊」「渡邉」ともに本来の伝統的字形は2点しんにょう(点2つ)とされることが多いが、デジタルフォントの仕様によっては1点しんにょうで描画される場合もある。基本的には「右下が方か口か」という点こそが、両者を見分ける絶対的な基準である。