トルコの北部に広がる黒海は、ロシア、ウクライナ、ルーマニア、ブルガリア、ジョージアに囲まれた閉鎖海域です。この黒海と外洋(エーゲ海・地中海)を結ぶ唯一の水路が、トルコが全域を領有するボスポラス海峡とダーダネルス海峡です。最狭部の幅がわずか約700メートルという天然のチョークポイントが、世界経済と軍事情勢のキャスティングボートを握っています。
ここで決定的な役割を果たすのが、1936年に締結されたモントルー条約です。この条約に基づき、トルコは戦時において非交戦国の立場を守りつつ、軍艦の海峡通過を厳格に制限する強大な国際法上の権限を行使できます。実際にウクライナ情勢の激化以降、トルコ政府はこの条約を厳格に発動し、ロシア軍艦の黒海への追加進入を遮断しました。
同時に、トルコは国連と共に「黒海穀物イニシアティブ」の仲介役を務めるなど、世界的な食料危機を回避するための不可欠なプレイヤーとして存在感を示しました。ボスポラス海峡の通行権という「地政学的な切り札」を握っているからこそ、トルコは西側諸国とロシア双方に対して極めて強い発言力を維持し続けることができるのです。