医療現場の紹介状で頻出する「御机下」ですが、まず押さえておきたいのがその基本的な言語仕様です。御机下の読み方は一般に「おんきか」と読まれるケースが大半を占め、慣用的に「ぎょきか」と発音されることもあります。単体で「机下(きか)」と記される場合もあり、接頭辞の「御」を添えることで相手に対する敬意を最大限に高めた形です。
御机下の意味を直訳的に捉えると「机の下」となり、現代の感覚ではかえって不敬に思えるかもしれません。しかし、本質は正反対に位置します。東洋の伝統的な書簡礼法において、「尊い相手の机の上に直接手紙を差し出すのはあまりに無礼で恐れ多い。せめて机の下にそっと置かせていただくので、お暇な際にお目通し願いたい」という、書き手自身の身を極限まで低くするへりくだり(謙譲)の思想が込められているのです。
この表現の歴史は極めて古く、国語辞書の典拠を紐解くと、8世紀後半に成立した日本最古の和歌集『万葉集』巻十七(三九六五・題詞)に「聊作二寸分之歌一、軽奉二机下一(聊か寸分の歌を作り、軽ろく机下に奉る)」と記されています。奈良時代の文人官僚たちの間で、相手への細やかな配慮を示す教養ある語彙としてすでに確立されていた事実が分かります。手紙の宛名に添えて相手への敬意を表す言葉を「脇付(わきづけ)」と呼びますが、御机下は千数百年にわたって受け継がれてきた格式高い脇付の筆頭格なのです。