「少しくらい古くても、塗らないよりは紫外線防御になるだろう」と考えるのは、スキンケアにおける最大の誤認です。劣化した日焼け止めを顔やデコルテに塗布する行為は、紫外線を防ぐどころか自ら肌トラブルの種を蒔いている事態に等しいといえます。
その主たる元凶が、日焼け止めの酸化が引き起こす肌荒れのメカニズムです。日焼け止めには、紫外線を散乱・吸収する有効成分のほか、それらを均一に伸ばすための植物油、エステル油、シリコーンオイル、界面活性剤、増粘剤などが絶妙なバランスで配合されています。一度開封されて酸素と熱に晒された油分は、時間の経過とともに過酸化脂質へと変化します。この過酸化脂質は皮膚にとって強い刺激物であり、角層のバリア機能を不可逆的に破壊してしまいます。
バリア機能が破壊された表皮は微小な炎症を起こし、ヒリつきや赤み、毛穴の開き、接触皮膚炎を誘発します。さらに恐ろしいのは、皮膚内部で生じた持続的な炎症シグナルがメラノサイトを刺激し、メラニン色素の過剰生成を促進してしまう点です。「日焼け止めを塗ってシミを防ごうとした結果、劣化した成分のせいでシミが濃くなる」という本末転倒な現象は、皮膚科の外来でも実際に報告されている典型例です。
加えて見逃せないのが、日焼け止めのUVカット効果の著しい低下です。液剤が劣化すると、均一に混ざり合っていた紫外線散乱剤(酸化チタンや酸化亜鉛)や紫外線吸収剤が凝集し、肌表面にムラのある膜しか形成できなくなります。肉眼では均一に塗れているように見えても、マイクロスコープで見れば保護膜に無数の隙間が空いている状態となり、特定部位だけが激しく紫外線ダメージを受ける「まだら日焼け」を引き起こすリスクが高まります。