ゴールドシップの競走馬人生を語る上で、ファンが今なお鮮烈に記憶しているのが2015年の宝塚記念です。ファン投票1位、圧倒的1番人気(単勝1.9倍)に支持され、前人未到の宝塚記念3連覇の偉業がかかった大舞台でした。しかし、ゲートが開いた瞬間、ゴールドシップは隣のトーホウジャッカルを激しく威嚇するように立ち上がり、大きく出遅れます。結果はまさかの15着大敗。このとき、ゴールドシップ絡みで購入されていた約120億円分の馬券が一瞬にして紙屑と化し、競馬史に残る「120億円事件」として語り継がれることになりました。
レース直後、当時の須貝尚介調教師は「ゲート内で唸り声を上げて立ち上がってしまった。これも競馬、これもゴールドシップ」と肩を落としながらも苦笑いを浮かべ、担当の今浪隆利厩務員はファンへの申し訳なさに胸を痛めました。しかし、スタンドを埋め尽くした大観衆から起きたのは怒号ではなく、どこか呆れつつも「あいつならやりかねない」という奇妙な納得と、悲鳴混じりの歓声でした。競馬という真剣勝負のギャンブルにおいて、120億円を吹き飛ばしてなおファンに愛され、語り草となる競走馬は後にも先にもゴールドシップをおいて他に存在しません。
ゴールドシップの伝説エピソードは、単なるアクシデントにとどまりません。2012年の菊花賞では、3コーナー過ぎの最後方から前を行く他馬を別次元の手応えで一気に抜き去り、京都の急坂をものともせず先頭に躍り出るという、物理法則を無視したかのような走りを見せました。競馬界では今なお「ゴールドシップの菊花賞ワープ」と語り継がれる伝説のレースです。手綱を取った内田博幸騎手は、当時のインタビューで「馬自身が走る気になった時の爆発力は、これまでに乗ったどの馬とも違っていた。乗っている人間が引っ張られる感覚だった」と回顧しています。気分が乗らなければあっさり惨敗し、やる気を出せば異次元の走りでねじ伏せる。この予測不能なドラマ性こそが、人々を熱狂させた根源でした。