本作の驚くべきリアリティを支えているのは、綿密な実体験のルポルタージュ……と思われがちですが、実は全く異なる背景を持っています。バンドの頭脳である宮崎朝子(Gt.Vo)が当時の音楽専門誌や特番インタビューで明かした制作秘話は、ファンの間でも伝説的なエピソードとして語り継がれています。
当時、高校を卒業して本格的にプロの道を歩み始めていた宮崎は、「実は夏フェスというものに客として一度も行ったことがなかった」と公言しています。フェスの過酷な暑さ、砂埃、Tシャツの汗、混雑する物販といった情景は、すべて彼女の卓越した妄想力と人間観察から構築されたフィクションだったのです。
「フェスに行ったことがない女の子が、好きな男の子に誘われて行ったらどうなるか」というifのシチュエーションを極限まで具体化させた筆致は、まさに驚異的というほかありません。実際にフェスに通い詰めている人間では見落としてしまうような「靴が汚れることへの戸惑い」や「爆音に対する純粋な驚愕」が、フェス未経験者のピュアな視点ゆえに鮮明に描き出されています。実体験の再現ではなく、研ぎ澄まされたイマジネーションによって生み出されたからこそ、特定の誰かの思い出にとどまらない、普遍的な共感を呼ぶアンセムへと成長したと言えます。