なぜここまで明白な医学的事実が存在しながら、「タバコ無害論」はネット上で根強く生き残り続けるのでしょうか。そこには人間の認知バイアスと情報環境の歪みが関係しています。
一つは「生存者バイアス」です。世間には「近所の〇〇さんは1日3箱タバコを吸っていたが90歳まで生きた」「吸わないあの人が若くして肺がんで亡くなった」という身近な個別エピソードが溢れています。人間は統計データよりも感情を揺さぶる身近なストーリーを記憶しやすいため、極端な例外事例を「全体の真実」と取り違えてしまいます。
もう一つは、心理学でいう「認知的不協和の解消」です。喫煙者自身、「身体に悪いとわかっていてもやめられない」という強いストレスを抱えています。その時、「タバコとがんは関係ない」「禁煙政策は国の陰謀」という言説に出会うと、自身の喫煙行為を正当化できるため、無批判に飛びつきやすくなります。疑わしい言説がネット上で高再生回数を記録するのは、受け手の「信じたい」という心理的欲求が強く作用しているためです。