愛知県豊橋市で生まれ育った木藤亜也さんは、ごく普通の明るく優秀な少女だった。異変が起きたのは、県立高校の受験を控えた中学3年生の秋。歩行中に突然バランスを崩して転倒し、顔面を強く打つといった奇妙な症状が現れ始める。心配した母・潮香さんと共に訪れた病院で、精密検査の末に告げられた病名は「脊髄小脳変性症」だった。
この病気は、運動機能を司る小脳や脊髄の神経細胞が徐々に変性・脱落していく進行性の難病だ。意識や知能、記憶力は完全に保たれたまま、体の自由だけが少しずつ奪われていく。喋りたいのに言葉がもつれる。走りたいのに足が追いつかない。「なぜ自分が選ばれたのか」。多感な時期を迎えていた少女にとって、それはあまりにも酷な現実の始まりだった。