ネット上で誰もが一度は目にしたことがあるフレーズ「なぜ笑うんだい?」。この言葉が生まれたのは、2014年7月に行われた美容機器ブランド「MTG」のPRイベントでした。当時レアル・マドリードのエースとして世界最高峰に君臨していたクリスティアーノ・ロナウドが来日し、各メディアが詰めかけた華やかなステージでの出来事です。
イベントの特別企画として、公募で選ばれた子どもたちがスーパースターに直接質問できる時間が設けられました。登壇したのは、当時小学6年生(12歳)だった岩岡遼太(いわおか りょうた)君。岩岡君の手には、小さな文字でびっしりと書かれたメモが握られていました。通訳を介して日本語で質問することも許されていた環境の中で、彼はロナウドの母国語であるポルトガル語で直接想いを伝えようと、事前に何日も発音を猛特訓してステージに上がっていたのです。
壇上に立った岩岡君は、緊張で声を震わせながら、メモを一言ひとこと辿るように読み上げ始めました。
「ボア・タルデ(こんにちは)。メウ・ノーメ・エ・リョウタ(僕の名前は遼太です)。僕の夢は将来あなたと一緒にサッカーをすることです。どうすればプロ選手になれますか?」
お世辞にも流暢とは言えない、途切れ途切れの発音。時間が経つにつれ、会見場を埋め尽くした日本の報道陣や関係者の間から、クスクスと漏れ出るような失笑が響き始めました。子どもが背伸びをして覚えたての外国語を話す滑稽さ、あるいは進行がもたついていることへの冷やかしが混ざり合った、無神経な大人の反応でした。
その空気を察知した瞬間、ロナウドの表情から笑みが完全に消え去りました。彼はイヤホンを外し、怪訝な面持ちで周囲の記者席を鋭く見回すと、司会者と会場に向けて強い口調で問いかけたのです。
「Why they smile? Why? He speaks good Portuguese, very good. They should be happy because he tries very hard.」
(なぜ彼らは笑うんだい? 彼のポルトガル語は上手だよ、本当に上手だ。一生懸命に挑戦しているのだから、みんな喜ぶべきじゃないか)
世界的スーパースターによる毅然とした一喝。冷笑に包まれていた会場は一瞬で静まり返り、バツの悪そうな沈黙ののち、慌てたような拍手が沸き起こりました。ロナウドは再び少年に優しい眼差しを向け、「強い信念を持って毎日ハードワークを続ければ、チャンスは必ず訪れる」と熱いアドバイスを送ったのです。挑戦する者を決して嘲笑させない――アスリートとしての誇りと圧倒的な人間力が垣間見えた、伝説の瞬間でした。